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2018年4月17日 (火)

114 夜深し隣はなにをする人ぞ

 

剣豪石川五右エ門が朝の鍛錬から戻ってくると、アジトのリビングでは次元大介と峰不二子が揉めに揉めていた。

「どうしていつも私の計画に反対するのよ!この黒髭男」

「おまえの計画なんてロクなもんじゃねえ!この性悪女」

「ねえ、ルパンは私の味方よね。こんなヘボガンマン、追い出しちゃってよ」

「言ったな? ルパン、こんな女の話しは聞くな。出て行くのはおまえだ」

「はいはい、もう分かったから。二人ともちっとは仲良くしてよ、ね、ね」

「ふん!」

どうということはない、いつもの見慣れた光景。水と油、犬と猫。

五右エ門が知らん顔して通り過ぎようとすると、

「あ、五右エ門、ちょうどいいところに! お前からも何か言ってやってくれよお~」

ルパンが助けを求めるように情けない声を上げる。これもいつもの展開だ。

「くだらん」

五右エ門はぴしゃりと言い放ち、リビングのドアを閉めた。

 

しかし、どうしてあの二人はああも喧嘩が絶えないのだろうか。

気が合わないのなら互いに黙っていればいいものを、次元も不二子も相手が口を開けばわざわざ余計な一言を挟むのだから呆れ果てる。好んで喧嘩を仕掛けているようなものだ。

そもそも、不二子を仕事に加えようとするから問題が起こる。女と仕事をするのは次元だけでなく自分も大いに反対だ。

つまり、ルパンがしっかりしないから悪いのだ。

そこまで考えて、「拙者の知ったことではない」五右エ門はゆらゆらと頭を振った。

 

***

 

陽が落ちて、アジトで賑やかしく夕食をとった後、ルパンは大事な用事があると言ってフィアットに飛び乗り、次元はリビングの三人掛けソファを占領して勝手に一杯やりはじめた。

それを機に、五右エ門は自室へと引き上げる。

不二子の姿は見かけないが、ルパンが何度もご機嫌取りに部屋まで足を運んでいたため、いるにはいるのだろう。

侍の夜は早い。時計はまだ9時を回ったばかりだが、寝間着に着替えて布団に潜り込む。

この部屋はもともと洋間だったのだが、五右エ門がベッドでは眠れないと文句を言ったため、ルパンがフローリングの上に畳を敷いてくれたもの。以来、外国暮らしでも快適に過ごせている。やはり畳に直に敷いた布団は格段に落ち着く。

寝床の準備をしながら、ふと昼間に読んだ風水の本を思い出した。

精神集中には寝所は東側が良いらしい。

ものは試しと、五右エ門は今まで部屋の真ん中だった布団を東の壁際にぴったりと敷いてみた。

毛布にくるまり目を閉じれば、窓からの月明かりも差し込まず、廊下から漏れる雑音も届かず、確かに精神力が高まりそうに思える。隣が壁だというのも安心感がある。

そうこうしているうちに、五右エ門はこんこんと眠りに落ちていった。

 

***

 

ザワザワとした気配で五右エ門は眠りの縁から引き戻された。

職業柄、どんなに熟睡していたとしても、殺気を感じれば即座に飛び起き、枕元の刀を抜くことができる。

しかし、潮の満ち引きのように遠く、近く聞こえてくるくぐもった声は、明らかにそういった類のものではない。声は五右エ門の背にした壁の向こうから響いてくる。

五右エ門は静かに寝返りを打つと、息を潜めた。隣は次元の部屋である。どうやら壁越しに平行してベッドが配置してあるようだ。

どうせ遅くまで飲んでいたのだろうから、酔って寝言でも言っているのだろうと五右エ門は思う。

ただ、次元も若いという年齢でもなく、不規則な生活に酒に煙草の常習犯となれば、いつなんどき体調に異変が起こらないとも限らない。予期せぬ腹痛か頭痛かで唸っているのなら、すぐに駆けつけなくてはならない。

その考えに至ると、五右エ門の目は完全に醒めた。

思わず体を起こして壁に耳をそばだてる。

ただし、性急な行動で安眠を妨害すれば、あの気難しいガンマンのことである。激昂してマグナムで撃ち殺されかねない。ここは状況をしっかり把握する必要があった。

聞こえてくるのは、ベッドの軋む音。シーツの擦れる音。次元の囁くような低い声。そして、微かに響く女の声。

えっ、女?

壁に掛けた柱時計に目をやると、時刻は24時を少し回ったところ。ルパンが帰った形跡はない。おそらく、出掛けの様子だと戻ってくるのは明け方か昼過ぎか。

途端に五右エ門は馬鹿らしくなって苦笑いした。

「次元のやつめ、女を買ったのだな」

このアジトには不二子の部屋もあるため、大っぴらにはしていないが、大抵のアジトにはルパン御用達のコールガールの名簿が備わっている。普段はシェアハウスのような共同生活を送っている3人だが、プライバシーは完全に守られており、基本、個室で誰が何をしようと自由である。

ルパンも不二子がいない夜に女を呼んで大騒ぎしたことも二度、三度ではない。

ただし、その時の五右エ門は完全に熟睡状態で、翌朝、次元から説教されているルパンを見て状況を推し量るに過ぎないのだが。

そして、次元も成人した男である。そういう楽しみがあっても全く悪くはない。酔った勢いもある。それに関して五右エ門は文句を言う筋もない。

だが、なぜ目が覚めたのだろう。

暗がりの部屋をゆっくり見回して、今日に限って東の壁側に布団を寄せた自分が悔やまれた。風水の本も当てにはならぬ。精神集中どころではない。

それより早合点して部屋に飛び込まなくて本当に良かった。冗談抜きで撃ち殺されるところだった。

はああと長い溜息をつき、布団をいつもの部屋の真ん中に戻そうとした時、耳に飛び込んできたソプラノに五右エ門は頭を竹刀で殴られたかのような衝撃を受けた。

理性より先に体が動く。慌てて壁に耳をつける。

 

「…声だせよ」

「…あん…だめよ、五右エ門が…」

「…大丈夫だ、今まで起きたためしがねえよ」

「…でも、ああん、それ跡がついちゃう」

「…首の後ろならいいだろ」

「…は、あっ」

 

五右エ門の心臓が跳ね上がる。間違いない。この声は峰不二子だ。

しかし、なぜ不二子が次元の部屋に? 二人は水と油のはず。それを証拠に、今日こそ大喧嘩をしていたではないか。黒髭男の性悪女のヘボガンマンの欲張り女。だいたい不二子はルパンの恋人ではないのか? それなのに二人が一緒にいる? 夜中に? 

そしてこの状況は、おそらく多分間違いなく…。

頭が混乱しつつも、五右エ門は壁から耳が離せなくなった。緊張で張り詰めた鼓膜には、隣室の男女の会話が衣擦れの間に艶めかしく響く。

 

「…んっ、じげん…あ、あっ」

「…ふじ、こ」

「…すき、すきよ、じげん」

「…ああ、おれ、も…だ」

 

五右エ門は経験こそ乏しいが、壁一枚向こう側でなにが行われているかは十分に分かる。

最初こそ隣室を気遣って控えめだった二人の動きは、今や無我夢中と言った感じで、遠慮なく伝わってくる色っぽい喘ぎ声と肌を打つ水音に頭がくらくらする。

このようなことが、自分の寝ている間に何度も繰り返されてきたのかと思うと、五右エ門は今が夢か現実かも分からなくなった。

そもそも、昼間に犬猫でいがみ合っている次元と不二子と、夜中に密やかに激しく愛を交わす次元と不二子は同一人物なのか? それをルパンは知っているのか? 

ベッドが軋む縦揺れの間隔が短く強くなったと思った瞬間、どちらのものとも分からない悲鳴のような声が短く上がり、急にぱたりと静かになった。

ただ五右エ門の心音だけがドクドクと騒がしいままで、もうどうにも眠れそうになかった。

 

***

 

五右エ門はぼんやりとした頭を抱え、ようやく布団から起き出した。

結局あれから一睡もできず、朝の鍛錬も行わず、どういう顔をして次元と不二子、そしてルパンに会えばいいのかと悶々としているうち、時刻は既に昼前になっていた。

カーテン越しに差し込む白い光が眩しすぎて、思わず眉を寄せる。

しかし、このままずっと部屋に引きこもっているわけにもいかない。五右エ門は意を決して、仲間がいる階下のリビングへと向かった。

リビングには案の定、全員が揃っていた。

「あんら~五右エ門ってば、今ごろどうしちゃったのさ。朝の稽古もしないで、寝坊なんて珍しい。ってか、なんかやつれてるんじゃない? 目の下すんごいクマできてるし?」

ルパンが清々しいまでの笑顔で出迎える。

「いま部屋を見に行こうかって話してたのよ。具合でも悪いの? 顔が青いわよ」

不二子が心配げに近寄ってきて、首を傾げて覗き込む。

栗色の髪が柔らかく揺れるのと同時に甘く優しい香りがふわりと漂い、五右エ門は思わず叫びそうになった。とても正視できない。急いで目を逸らす。

「だ、大丈夫だ! な、な、なんでもないでござる!」

そわそわと青くなったり赤くなったりで、全く落ち着かない五右エ門に、不二子がきょとんとした顔をする。その後ろから、ソファに寝そべった次元が低い声で意見する。

「まあ、たまにはいいんじゃねえか? 別に仕事もねえし、だいたい五右エ門はしっかりきっかりしすぎなんだよ。俺だって今さっき起きたところだ。ルパンなんて朝帰りだぜ」

「あなたたちと五右エ門を一緒にしないでよ。そもそも次元はいつもだらしなさすぎるの。ああ、もう! 寝そべって煙草吸うのはやめてって言ってるじゃない。灰が落ちる!」

「うるせえなあ、この小姑が」

「なんですって!」

「おう、やるか!」

早速、口喧嘩を開始する次元と不二子。いつもと変わらない犬猫な二人。わけが分からない。昨夜のことは、やはり夢だったのではないかと五右エ門は思う。

でも、確かに夢ではないのだ。

その証拠に、さっき不二子が心配して五右エ門の顔を覗き込んだ時。ふわりと揺れた髪の間から僅かに覗いた白い首筋。そこにひっそり残された、紫色した花の印。

「だあ~っつ! もう二人とも喧嘩はやめなさいっ!」

ルパンは五右エ門の動揺に気付くことなく、次元と不二子の争いに割って入って大声で叫ぶ。

「どうして、おまえたちってばそんなに仲が悪いんだよ? 毎回仲裁に入る俺の身にもなれってえの!」

「ふん!」

 

この現実世界には目では見えない事実が多すぎる。

五右エ門はゆらゆらと頭を振ると、そのまま踵を返した。

「あれ? 五右エ門ちゃんたらどこ行くのさ?」

「大丈夫? やっぱり具合が悪いんじゃないの?」

「なんだ、腹下しか? 寝ときゃ治るぜ」

ルパンと不二子と次元のまるで他人事な声を背中に受けながら、

「…修行の旅に出る」

五右エ門は力なく呟くと、静かにドアを閉めた。

残された3人はぽかんとしたまま、ただ侍を見送るしかなかった。

 

 

(終わり)

 

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コメント

こんにちは、有岡さん。
びーっくりしました!!ついにふたりの仲に気づいてしまった五右エ門視点のお話とは!五右エ門と壁に聞き耳を立て、隣の部屋の様子を伺っている感覚で、私も心臓がバクバクしました(笑)仲間の前では水と油な次元さんと不二子ちゃんが実は深い仲だと知ってしまったならば、それはそれは混乱極まりないですよね…
そりゃ修行の旅に出ますわ(笑)
今回も素敵なお話ありがとうございました。
ところで有岡さん、これでジゲフジいちゃこら祭りは閉幕ですかー?

すー様
こんにちは。早速の感想ありがとうございます。うれしいですhappy02
「秘密」に続いて五右エ門の受難、再びです(笑)。実はルパンよりも五右エ門の方が先に二人の関係を知っていたのかもですよ。ジゲもフジもゴエは色恋には鈍いと油断してると思うしww
いちゃこら祭りはあと2回の予定です。だらだらしたノロケ話しみたいな短編ですが(汗)、GWに入る前には終了しますので、どうぞ最後までお付き合いくださいね。

こんにちは。
新作「夜深し隣はなにをする人ぞ」、楽しく読ませていただきました。
過去作「秘密」の続編ですね!

ザワザワとした気配で目覚めた五右エ門が次元さんの部屋の物音に聞き耳をたてて次元さんと不二子ちゃんとの本当の関係を知ってしまうまでがまるでミステリ小説のようでドキドキしてしまいましたし、「なぜあのふたりが」とあれこれ推測して心中穏やかならぬ五右エ門が目に浮かぶようです。

以前からもしやと思っていたのが事実だと分かり五右エ門もさぞ驚いたことでしょう、しかもあんな声聞かされちゃそりゃ寝れませんね(笑)
そして、次元さんと不二子ちゃんのいちゃこらなちょっぴりRなシーンも素晴らしかったですよ♪

五右エ門を心配する不二子ちゃんに昨夜のことを思いだしあたふたとするところや不二子ちゃんの白い首筋に紫色した花の印を見て昨夜のことが夢ではないと確信し動揺するところなどが可愛らしいなぁと思いました。
ラストに「修行の旅」に出ちゃうなんてとっても五右エ門らしいです(笑)

今回も「ジゲフジいちゃこら祭り」作文、楽しませていただきました、ありがとうございます。
いつも有岡さんのジゲフジを読むことができて嬉しく幸せなことだなぁと思っていますo(^-^)o

それでは、次回作も楽しみにしています。

綾子さま
こんばんは。綾子さまには、いつもわたしの拙い作文を読んでいただき、感想まで寄せていただいて、こちらこそ嬉しく幸せなことだと思っています。本当にありがとうございますheart01
今回の作文、いきなり直接あんな声を聞かされた五右エ門は、そらもう色んな意味で眠れませんよ(笑)。きっと修行に出たまま帰って来ないと思います。それか、耐えられなくなってみんなの前で爆弾発言をかますか(爆) 五右エ門の受難シリーズはまだ続くかも知れませんsmile
いちゃこら祭り、もうちょっとありますので、次回もよろしくお願いします!

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